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公認会計士が事業会社へ転職するときの選択肢|経理・CFO候補への道筋と判断軸

Photo by rupixen on Unsplash

監査法人で数年働き、クライアントの経理部門や財務担当者と話すたびに「自分が数字を作る側に回ったらどうなるだろう」と考える。そんな場面は珍しくありません。監査の経験は積めている一方で、期末のたびに繰り返される業務の型、会計処理を決める側ではなく確認する側にいることへの物足りなさ、働き方やキャリアの先行きが気になり始める時期でもあります。

ただ、事業会社への転職は「会計士なら歓迎される」と単純に言い切れるものではありません。同じ事業会社でも、経理で決算を担うのか、財務や経営企画で数字を使う側に回るのか、内部監査で監査の延長線上に立つのかで、求められる経験も、その後の道筋も変わります。「CFO候補」という言葉が求人に並んでいても、実際の役割は会社によってかなり違います。

この記事では、公認会計士が事業会社へ移るときの主な選択肢を役割ごとに分け、年収の見方、応募先を比べる軸、応募までの準備手順を順に整理します。読み終えるころには、自分の経験でどの役割から入るのが現実的か、求人票や面接で何を確かめればよいかを、自分で判断できる状態を目指します。

この記事で分かること

  • 公認会計士が事業会社で就く主な役割と、役割ごとに求められる経験の違い
  • 年収を公的統計でどう読み、どこから先は個別に確認すべきか
  • 応募先を比べるための確認項目と、条件別の判断の目安
  • 応募前に準備しておくことと、使える情報源
目次

事業会社で公認会計士が就く役割は大きく4つに分かれる

事業会社への転職先は、「経理・決算」「財務・資金」「経営企画・FP&A」「内部監査・内部統制」の4つに分けて考えると整理しやすくなります。監査経験の活かし方がそれぞれ違うため、まず自分がどの役割を目指すのかを決めることが、求人選びの出発点です。

経理・決算:最も入りやすく、連結の経験が評価されやすい

経理部門は、監査法人での経験を最も直接的に活かせる入口です。単体決算だけでなく、連結決算、開示書類の作成、監査法人との対応といった業務は、監査を受ける側の視点を知っているかどうかで進め方が変わります。監査人として相手方の担当者と何度もやり取りしてきた経験は、期末の調整や論点整理の場面で役に立ちます。

一方で、監査では「確認する」立場だった分、事業会社では「自分で処理を決めて、締め切りに間に合わせる」立場になります。手を動かす比重が大きくなるため、仕訳や決算スケジュールの管理といった実務に抵抗がないかは、事前に自分に問い直しておく価値があります。

財務・資金:資金調達や銀行対応の経験を求められやすい

財務部門は、資金繰り、金融機関との折衝、資金調達、為替や金利の管理などを担います。監査で財務諸表を見ていても、実際の資金調達の交渉や資金繰り表の運用は別の技能です。監査の経験だけで入るというより、金融機関のクライアントを担当した経験や、デリバティブ・金融商品の会計に強い経験が評価の材料になりやすい領域です。

経営企画・FP&A:数字を使って意思決定を支える側へ

経営企画や予算管理(FP&A)は、決算数値を過去の報告にとどめず、予算・見通し・投資判断に使う役割です。会計士の知識は財務諸表を読む力としては強みになりますが、事業の数字を動かす議論に入るには、事業の仕組みや現場の言葉を理解する努力が欠かせません。経理から入って社内の信頼を得たあとに異動する、という順序を踏む人もいます。

内部監査・内部統制:監査の延長線上で移りやすい

内部監査や内部統制の部門は、監査法人での視点をそのまま活かせます。リスクの見方、監査証拠の考え方、統制の評価といった経験が直結するため、経理や財務より入りやすいと感じる人が多い領域です。ただし、会社によっては内部監査の人数が少なく、将来のポジションが限られることもあります。「CFO候補」を目指す場合は、内部監査にとどまるのか、他部署へ回る道があるのかを確認しておくと安心です。

年収は公的統計で全体像を押さえ、個別の条件は求人で確かめる

公認会計士の年収を公的統計で見ると、厚生労働省の職業情報提供サイト job tag の「公認会計士」のページに、全国の年収が810.8万円と掲載されています。出典は令和7年賃金構造基本統計調査です。まずは職業全体の水準を知る基準として使い、個別の転職でどう変わるかは別に確認する、という順序で読むのが適切です。

この数値は職業全体の全国値であり、監査法人から事業会社へ移った場合に年収がどう変わるかを示す数字ではありません。公的統計では、監査法人と事業会社を分けた比較や、役職・上場企業か非上場かといった区分での年収は示されていません。そのため、「事業会社に行くと年収が上がる」「下がる」といった結論は、公的統計からは出せません。

では、何を見て判断するのかを整理します。応募先ごとに、次の項目を求人票や面接で確認することをおすすめします。

  • 想定する等級・役職と、その等級に昇格する条件
  • 月給と賞与の内訳(賞与が業績連動か固定か)
  • 残業代の扱い(みなし残業、管理職扱いで残業代が出ないか)
  • 住宅手当・退職金・ストックオプションなどの手当と制度
  • 資格手当の有無と、公認会計士として登録しているかの扱い

年収の総額だけで比べると、残業時間や賞与の考え方の違いを見落とします。月の総労働時間がどう変わるのかを、年収と合わせて見るようにしてください。

たとえば、監査法人で繁忙期に長時間働いて年収が高めだった人が、事業会社で定時に近い働き方に変わると、年収は下がっても時間あたりの収入や生活の余裕は改善することがあります。逆に、上場準備中の企業で責任範囲が広く、残業が増えることもあります。どちらが良いかは、自分が何を優先するかで決まります。

応募先を比べる軸と条件別の判断の目安

応募先は、「会社の成長段階」「経理体制の成熟度」「会計士に期待される役割」の3つで比べると、入社後のギャップを減らせます。ここでは、判断に使える比較表を示します。

応募先の型期待されやすい役割向いている人の目安入社前に確認すること
上場企業の経理部門連結決算・開示・監査対応の中核決算の実務を一通り経験し、連結や開示の知識を活かしたい人経理部門の人数と、会計士が配属される部署の位置づけ
上場準備中の企業決算体制の整備、開示準備、内部統制の構築制度の立ち上げを経験したい人、裁量の大きさを求める人上場時期の計画、経営陣の会計への理解、管理部門の人員
非上場の中堅企業経理全般、財務、経営管理を幅広く一人で複数の領域を見る働き方に抵抗がない人将来の役員登用や担当領域の広がりの有無
内部監査・内部統制の部門監査計画、統制の評価、改善提案監査の経験を直接活かし、環境の変化を小さくしたい人部門の人数、他部署への異動の事例
経営企画・FP&A予算策定、事業計画、投資判断の支援事業の数字を動かす議論に入りたい人前職の事業理解がどこまで求められるか

この表は、どれが優れているかを示すものではありません。自分の経験と希望がどの行に近いかを見つけるための目安です。

「CFO候補」の求人は役割を具体的に聞く

求人票に「CFO候補」「管理部門責任者候補」とあっても、実際には経理担当者1人から始まる体制のこともあれば、すでに部門が整っていて引き継ぎを見据えている場合もあります。面接では、現在の管理部門の人数、決裁の範囲、役員との距離、CFOに至るまでの想定期間と条件を具体的に質問してください。曖昧な答えが続く場合は、期待される役割が整理されていない可能性があります。

監査法人での年次によって狙える役割は変わる

監査法人で数年のスタッフ・シニアの段階であれば、まず経理や内部監査で実務の幅を広げるのが現実的です。マネージャー以上で、チームの管理や顧客対応の経験があれば、管理職候補やプロジェクトの責任者として評価されることがあります。ただし、年次と役職の対応は会社によって大きく違うため、「何年目なら必ずこの役割」とは言えません。自分の経験を、相手が求める役割の言葉に置き換えて説明できるかが問われます。

業界や事業の理解は入社後の伸びを左右する

監査では業種を横断して見ることが多いため、特定業界への深い理解は事業会社に入ってから身につけることになります。応募先の事業内容や収益の仕組みを事前に調べ、なぜその会社を選ぶのかを話せるようにしておくと、志望の一貫性が伝わります。監査で担当した業種と近い会社を選ぶと、会計処理の特性を理解しているという説明がしやすくなります。

応募前に整えておく準備手順

準備は、「経験の棚卸し」「応募先の絞り込み」「書類と面接の準備」「登録と情報収集」の順に進めると、手戻りが少なくなります。難しいことを一度にやろうとせず、順番に取り組むのが近道です。

手順1:担当した業務を役割の言葉に置き換える

監査法人での経験は、そのまま書くと監査用語が並ぶだけで、事業会社の採用担当者には伝わりにくくなります。たとえば「期末監査で売上の網羅性を検証した」は、「収益認識の論点を整理し、経理担当者と処理方針を詰めた」のように、事業会社の業務に近い言葉へ言い換えます。担当した業種、会社の規模、関与した会計基準(収益認識、リース、連結、金融商品など)、監査以外に経験した業務(内部統制の評価、IPO関連業務など)を書き出して整理してください。

書き方の型は、経理の職務経歴書の考え方が参考になります。実績の見せ方や項目の整理は経理の職務経歴書の書き方|実績の見せ方と項目別の書き方・確認チェックで詳しく扱っています。

手順2:応募先を3〜5社に絞り、確認項目を用意する

先に挙げた比較表を使い、希望の役割と成長段階の組み合わせで応募先を絞ります。数を増やすより、1社ごとに事業内容と管理部門の体制を調べて、志望理由を具体的にするほうが通過率は上がります。確認項目は事前にメモにしておき、面接で聞きそびれないようにします。

手順3:面接で聞かれる点を想定して答えを用意する

事業会社の面接では、「なぜ監査法人を辞めるのか」「なぜ事業会社なのか」「手を動かす業務に抵抗はないか」が代表的な質問です。辞める理由を不満だけで語ると前向きさが伝わらないため、「事業会社で何を実現したいのか」を軸に組み立てます。質問の考え方は経理の転職面接で聞かれる質問と答え方|経験別の準備手順と逆質問の考え方も参考になります。

手順4:登録状況と情報源を確認する

公認会計士としての登録(名簿への登録)が済んでいるかどうかは、応募先によって扱いが変わります。登録の要件や手続きは、日本公認会計士協会の案内で最新の内容を確認してください。また、同協会には組織内会計士ネットワークがあり、組織内会計士である会員・準会員を正会員、組織内会計士に関心のある会員・準会員を賛助会員としています。会員数は3,121名(2025年12月末時点)と掲載されています。研修会や交流会の案内が配信されるため、すでに事業会社で働く会計士の話を聞く機会として活用できます。

移ってから後悔しやすい点を先に知っておく

事業会社への転職で後悔が出やすいのは、「役割の想定違い」「裁量の大きさの誤解」「監査法人に戻りにくいという不安」の3点です。事前に知っておけば、確認する項目に変えられます。

手を動かす業務が想像より多い

監査では確認と指摘が中心でしたが、事業会社では締め切りまでに処理を終え、他部署を説得して進める役割になります。会計士だから判断だけを任される、という期待は持たないほうが安全です。入社前に、担当する業務の具体例と、1日・1か月の仕事の流れを聞いておくと、想定のずれを減らせます。

「会計士だから」で社内の信頼が自動的に得られるわけではない

資格は入口で評価されても、社内で信頼を得るのは、実務を正確に回し、現場の事情を理解する姿勢です。専門知識を振りかざすより、現場の言葉で説明する意識が大切です。最初の数か月は事業の仕組みを学ぶ期間と割り切ると、気持ちに余裕が持てます。

将来の選択肢を残す方法を考えておく

事業会社に移っても、会計士としての登録を維持するかどうか、研修の単位を確保するかどうかは、自分で判断して管理する必要があります。将来、監査法人や他の事業会社、コンサルティングなどに移る可能性を残したい場合は、登録や研修の扱いを早めに確認しておくと安心です。

たとえば、上場準備中の企業に移った会計士が、準備が長引いて想定より時間がかかったとします。そのとき、経験した業務が文書として残っていれば、次の転職でも評価の材料になります。担当した制度設計や開示準備の内容は、在職中から記録しておくことをおすすめします。

まとめ

公認会計士が事業会社へ移る道は、経理・財務・経営企画・内部監査の4つの役割に整理でき、どれを選ぶかで求められる経験も、その後のキャリアの広がりも変わります。「CFO候補」という言葉の印象で選ぶのではなく、役割の中身と会社の成長段階を、具体的な質問で確かめることが失敗を減らします。

年収は、公的統計では職業全体の水準しか分からず、監査法人と事業会社を分けた比較はできません。総額だけで判断せず、月給と賞与の内訳、残業の扱い、手当や制度、働く時間を合わせて比べてください。

準備は、経験の棚卸し、応募先の絞り込み、書類と面接の準備、登録と情報収集の順に進めます。役割を事業会社の言葉に置き換えて説明できるようになれば、面接でも志望の一貫性が伝わります。

  • 事業会社での役割は「経理・決算」「財務・資金」「経営企画・FP&A」「内部監査・内部統制」の4つで整理する
  • 厚生労働省 job tag の「公認会計士」には全国の年収810.8万円(令和7年賃金構造基本統計調査)と掲載されているが、事業会社との比較はできない
  • 年収は総額だけでなく、賞与の内訳、残業代の扱い、手当、労働時間まで合わせて比べる
  • 「CFO候補」の求人は、管理部門の人数、決裁の範囲、昇格の条件を具体的に聞く
  • 日本公認会計士協会の組織内会計士ネットワークで、事業会社で働く会計士の情報を得る

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