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会計事務所を辞めたいときの判断基準と次の選択肢|理由別の整理

Photo by Elimende Inagella on Unsplash

繁忙期が終わるたびに「来年もこのまま続けるのか」と考えてしまう。担当先は増えるのに、教えてくれる人は減っていく。試験勉強の時間は取れず、休日も申告書のことが頭を離れない。会計事務所で働いていて辞めたいと感じるとき、多くの人は疲れと不安が混ざった状態で、答えを出せずにいます。

辞めたい気持ちには、大きく分けて二つの種類があります。いまの職場の条件や人間関係が合わないだけで、環境を変えれば解消する場合。もう一つは、会計事務所という働き方そのものが自分に合っていない場合です。前者なら同じ業界の別の事務所へ、後者なら一般企業の経理や別の専門領域へと、進む先が変わります。ここを混ぜたまま動くと、転職先でも同じ理由で辞めたくなります。

この記事では、辞めたい理由を整理する方法から、辞めずに解決できるケースと退職を考えたほうがよいケースの見分け方、転職先の選択肢、退職の手続きと準備までを順に扱います。読み終えるころには、「いま辞めるのか、条件を変えて続けるのか、準備期間を取るのか」を自分で判断できる状態を目指します。

この記事で分かること

  • 辞めたい理由を「環境」「働き方」「将来像」に分けて整理する方法
  • 辞めずに解決できる場合と、退職を考えたほうがよい場合の見分け方
  • 会計事務所を辞めたあとの代表的な転職先と、それぞれの向き不向き
  • 退職の申し出や失業給付に関する制度の基本
  • 退職を決める前にやっておく準備のチェックリスト
目次

辞めたい理由は「環境」「働き方」「将来像」に分けると判断しやすくなる

辞めたい理由は、環境の問題、働き方の問題、将来像の問題の三つのどれかに分類できます。どれが主因かによって、取るべき行動が変わります。

環境の問題:職場の条件や人間関係

所長や上司との相性、評価の不透明さ、給与の決まり方、担当先の割り振りの偏りなどは、事務所ごとに大きく違います。たとえば、入所三年目の担当者が、関与先を二十件近く任され、質問できる先輩もいない状況を考えてみます。この場合の苦しさは、会計事務所の仕事そのものではなく、人員配置と教育体制から来ています。

環境の問題は、別の事務所に移ることで解消する可能性が高い理由です。同じ業界の中で、規模や専門分野、担当制の仕組みが違う職場を選べば、同じ経験を活かしたまま状況を変えられます。規模による違いは、大手税理士法人と中小会計事務所はどちらを選ぶべきかでも整理しています。

働き方の問題:繁忙期の長時間労働や休日の確保

確定申告期や決算期に業務が集中する構造は、会計事務所の多くに共通します。ただし、繁忙期があること自体と、繁忙期の働き方が法の枠を超えていることは別の話です。

時間外労働の上限は、厚生労働省の「スタートアップ労働条件」によると、原則として月45時間、年360時間です。臨時的な特別の事情があって労使が合意した特別条項を結んでいても、時間外労働は年720時間以内、時間外労働と休日労働の合計は月100時間未満で、2か月から6か月のどの平均でも1か月あたり80時間以内、月45時間を超えられるのは年6か月までが限度とされています。自分の勤務実態がこの枠に収まっているかを、まず勤怠の記録で確認してみてください。

枠を超える働き方が常態化しているなら、それは「会計事務所だから仕方ない」では済まない問題です。社内で是正を求めるか、労働基準監督署などの相談窓口を使うか、転職で離れるかを、証拠を残しながら検討する段階にあります。

将来像の問題:この先のキャリアが描けない

税理士試験の科目合格が進まない、所長の後継や独立のイメージが持てない、扱う業務が記帳と申告に偏っていて経験の幅が広がらない。こうした悩みは、いまの条件に不満があるというより、数年後の自分が見えないという種類の不安です。

将来像の問題は、転職先を探す前に「何を目指すのか」を言葉にしないと解決しません。税理士として独立を目指すのか、資産税や事業承継といった専門分野を磨くのか、事業会社の経理や管理部門へ進むのか。目指す方向が決まれば、いまの職場で積める経験と足りない経験が見え、辞める時期も逆算できます。

辞めずに解決できる場合と、退職を考えたほうがよい場合を切り分ける

条件の交渉や配置の見直しで改善する見込みがあるなら、まず試す価値があります。一方で、改善を求める余地がない構造的な問題は、退職を前提に動いたほうが消耗を避けられます。

判断の目安を表にする

次の表は、典型的な悩みごとに、まず試す行動と退職を考えるサインを並べたものです。

悩みの種類まず試すこと退職を考えるサイン
担当先が多すぎる件数と作業時間を数値で示し、配分の見直しを相談する相談しても改善の見通しが示されず、半年以上変わらない
教育体制がない質問できる相手や週次の確認の場を提案する誰も業務を教えられず、ミスの責任だけが個人に回る
残業・休日出勤が多い勤怠記録を取り、上限規制との差を確認したうえで相談する上限を超える働き方が常態化し、是正の話が通らない
試験勉強の時間が取れない試験前の休暇や勤務時間の調整を相談する制度上は休暇があっても、実際には取れない雰囲気が続く
評価や給与に納得できない評価基準と昇給の仕組みを確認する基準の説明がなく、役割に見合う処遇に見直す気配がない
仕事内容に興味が持てない担当領域の変更や別業務への関与を希望する業界そのものに関心が薄れている

この表で右側に当てはまる項目が複数ある場合は、退職を現実の選択肢として準備を始める段階です。左側の行動はどれも、自分の状況を言葉と数字にする作業なので、辞めると決めた場合でも次の転職活動の材料として使えます。

試験との両立は職場の条件で決まる

税理士試験の勉強を続けたいのに時間が取れないという悩みは、本人の努力不足ではなく職場の制度で決まる部分が大きいものです。試験休暇や資格手当、勤務時間の柔軟さが実際に使われているかどうかが、続けられるかどうかを分けます。確認の仕方は、税理士試験と仕事を両立しやすい職場の条件にまとめています。

いまの職場で両立が難しいと分かったときに、辞めて勉強に専念するのではなく、両立できる職場へ移るという選択肢もあります。収入を保ったまま学習時間を確保できる環境を探すほうが、生活面のリスクを抑えられます。

感情が強いときは決断を急がない

繁忙期の直後や、強く叱責された直後は、辞めたい気持ちが最も強くなる時期です。その時点で退職を決めると、次の仕事を決める前に離職してしまい、条件の悪い求人を急いで選ぶことになりかねません。

気持ちが高ぶっているときは、結論を出す前に、辞めたい理由を紙に書き出して一週間ほど置いてみてください。時間を置いても同じ理由が残るなら、それは一時的な疲れではなく、構造的な問題である可能性が高いといえます。

辞めたあとの選択肢は4つの方向に分かれる

会計事務所を辞める人の進み先は、おおむね同業界の別の事務所、事業会社の経理、専門性を活かせる別の職場、一度立ち止まっての学習や休養の四つに整理できます。

別の会計事務所・税理士法人へ移る

環境の問題が主因なら、最も無理なく進める道です。これまでの実務経験がそのまま評価され、年次や担当件数に応じた即戦力として見てもらえます。移るときは、規模、専門分野、担当制か分業制か、繁忙期の実態、試験支援の制度を比べると、同じ失敗を避けやすくなります。

資産税や相続のような専門分野に絞る道もあります。未経験から入る場合の進め方は、資産税・相続専門の税理士法人へ転職するにはで扱っています。転職後に後悔しないための確認事項は、税理士法人への転職で後悔しないための確認事項も参考になります。

一般企業の経理・財務へ移る

働き方の問題や将来像の問題が主因で、繁忙期の波を小さくしたい人に向く道です。会計事務所で身につけた記帳、決算、申告の知識は、事業会社の経理でも活かせます。ただし、仕事の性質は変わります。事務所では多くの会社を横断して扱いますが、事業会社では一社の経理に深く関わり、社内の部署との調整が仕事の中心になります。

向き不向きがあるため、応募前に、事業会社の経理が何を求められるかを確かめてください。両者の違いは、会計事務所と一般企業の経理の違いに整理してあります。

専門性を活かせる別の職場へ移る

事業承継、組織再編、国際税務、M&A関連など、会計事務所で触れた領域を深めたい場合は、その専門性を扱う法人やファームを検討できます。この道は、これまでの経験の中に、その領域の実務がどれだけ含まれているかで可能性が変わります。経験が薄いなら、まず現職で関われる範囲を広げてから動くほうが、選考で説明しやすくなります。

学習や休養のために一度立ち止まる

心身の不調が続いている場合や、試験に集中すると決めた場合は、次の仕事を決めずに退職する選択もあります。ただしこの道は、収入が途切れる期間をどう支えるかを先に決めておく必要があります。貯蓄でどれくらいの期間をまかなえるか、失業給付をどう使うかを計算しておかないと、焦りから条件の合わない仕事を選んでしまいます。

試験や資格の学習のために離職する場合は、制度も確認しておくと選択の幅が広がります。厚生労働省の案内では、令和7年4月以降にリ・スキリングのために教育訓練等を受けた(受けている)場合、自己都合退職の給付制限が解除され、基本手当を受給できるようになったとされています。対象となる教育訓練の範囲や手続きは、厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」で確認し、受講前にハローワークへ相談してください。

退職の申し出と失業給付の基本を知っておく

退職は、法律上は会社の同意がなくても成立するのが原則です。ただし就業規則との関係や、辞めたあとの給付の扱いを知らないと、不要なトラブルや金銭面の誤算が生じます。

退職の申し出は2週間が原則

期間の定めのない雇用契約では、労働者はいつでも解約の申し入れができ、雇用は申し入れの日から2週間を経過することで終了します。これはe-Gov法令検索「民法」第627条第1項の定めです。2020年4月施行の改正民法により、労働者からの退職の申し入れは、月給制であっても申し入れから2週間で契約が終了するのが原則です。会社の同意がなければ退職できないわけではありません。

一方、就業規則では「退職は1か月前までに申し出ること」のように、申し出の期限が定められていることが多くあります。後任への引き継ぎや関与先への説明を円満に進めるためには、この期限を目安として従うのが現実的です。ただし、法律上の原則は民法の2週間であり、極端に長い期限を定めた規定は、退職の自由を不当に制限するものとして無効と判断されることがあります。判断に迷う場合は、労働基準監督署や都道府県労働局の総合労働相談コーナーなどで個別の事情を相談してください。

繁忙期の前後でどの時期に動くかは、会計事務所の転職に適した時期で詳しく扱っています。

自己都合退職の給付制限は退職日で変わる

離職後に雇用保険の基本手当を受ける場合、正当な理由がなく自己の都合で退職したときは、受給資格決定日から7日間の待期期間のあと、一定期間は基本手当が支給されません。この期間を給付制限といいます。厚生労働省の案内では、退職日が令和7年4月1日以降である場合は原則1か月、同年3月31日以前である場合は原則2か月とされています。出典は、前節でも触れた厚生労働省「令和7年4月以降に教育訓練等を受ける場合、給付制限が解除され、基本手当を受給できます」です。

給付の可否や期間は、離職理由や被保険者期間によって変わります。実際の判断はハローワークで確認する必要があるため、ここでは目安の理解にとどめてください。働き方が上限規制を大きく超えていたなど、離職理由に特別な事情がある場合も、ハローワークでの扱いは個別に判断されます。

次の仕事が決まる前に辞めるかどうか

退職の手続きの話とは別に、次の仕事を決めてから辞めるか、辞めてから探すかは判断が分かれます。決めてから辞める場合は、収入が途切れず、条件交渉でも焦らずに済みます。辞めてから探す場合は、面接の日程に余裕が持てる反面、期間が延びたときの生活費が課題になります。

繁忙期は面接の日程を合わせにくいため、辞めてから探すことを選ぶ場合もあります。どちらを選ぶにしても、収入が途切れても生活できる月数を、あらかじめ数字で把握しておきましょう。

退職を決める前にやっておく準備チェックリスト

辞めると決める前に、次の項目を確認しておくと、後から慌てずに済みます。

現状の整理と記録

  • 辞めたい理由を「環境」「働き方」「将来像」のどれが主かで書き出した
  • 直近数か月の勤務時間と休日出勤の記録を残した
  • 就業規則で退職の申し出時期、有給休暇、退職金の扱いを確認した
  • 担当している関与先と進行中の業務の一覧を作った
  • 自分の実績(担当件数、担当した業務の種類、経験した決算や申告)を整理した

実績の整理は、職務経歴書の土台になります。書き方に迷う場合は、経理の職務経歴書の書き方の考え方が応用できます。

生活面と次の行き先の準備

  • 収入が途切れても生活できる月数を計算した
  • 転職先の候補を、同業界・事業会社・専門領域のうち、どの方向にするか決めた
  • 求人の探し方と、相談する窓口(紹介会社を使うか、直接応募か)を決めた
  • 応募先で必ず確認する項目(残業の実態、試験支援、教育体制)をメモにした
  • 面接で聞く逆質問を準備した

求人の探し方と見分け方は、会計事務所の求人の探し方や会計事務所の求人 見分け方にまとめています。

退職の伝え方の準備

  • 退職の意思は、まず直属の上司や所長に口頭で伝える順番を決めた
  • 退職日と引き継ぎの期間の案を用意した
  • 退職の意思を書面で残す場合、「退職願」ではなく「退職届」の形にするかを検討した
  • 繁忙期に重なる場合の引き継ぎ方法を考えた

意思表示を書面に残しておくと、後からの行き違いを避けられます。ただし書面の書き方や提出のタイミングは職場ごとの慣行があるため、就業規則と状況に合わせて決めてください。

まとめ

会計事務所を辞めたいという気持ちは、まず「環境」「働き方」「将来像」のどれが原因かを切り分けると、行動が決まります。環境の問題なら別の事務所へ、働き方や将来像の問題なら事業会社の経理や専門領域へと、進む先が分かれます。改善を求められる余地があるなら、数値と記録を持って相談するところから始められます。

退職の申し入れは、期間の定めのない雇用では民法上2週間で契約が終了するのが原則です。一方で、就業規則に申し出期限があることが多く、引き継ぎを円満に進めるには目安として従うのが現実的です。自己都合退職の場合の給付制限や、収入が途切れる期間の生活費も、辞める前に数字で確認しておきましょう。

辞めるかどうかを決めるのは、疲れ切ったときではなく、理由を整理し、準備を進めた後です。急がずに、一つずつ確認していけば、辞めるにしても続けるにしても、納得できる選択に近づけます。

  • 辞めたい理由は「環境」「働き方」「将来像」に分けると、取るべき行動が見えやすくなる
  • 時間外労働の上限は原則月45時間、年360時間。勤怠の記録で実態を確認する
  • 転職先は、同業界の別の事務所、事業会社の経理、専門領域、学習や休養の4方向で考える
  • 退職の申し入れは民法上2週間が原則。就業規則の期限は引き継ぎの目安として踏まえる
  • 辞める前に、生活できる月数、実績の整理、確認項目のメモを用意しておく

参考文献

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