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会計事務所の残業と繁忙期の実態|確定申告期の残業を見分ける方法

Photo by Paul Lichtblau on Unsplash

会計事務所の繁忙の中心は2月中旬から3月で、事務所によっては1月と5月にも山があります。残業の上限は法律で決まっていますが、実際にどこまで残業するかは事務所ごとに差があります。その差を見分ける鍵は、繁忙の山の数、残業の実測値、業務分担の3点です。

「税理士法人や会計事務所に転職したいけれど、確定申告の時期はどのくらい忙しくなるのか分からない」と感じている方は多いはずです。求人票の「繁忙期あり」という一文だけでは、どの月にどれだけ残業が発生するのか判断できません。税理士試験の受験生の方なら、8月の試験前に休めるのかも気になるところです。

たとえば、Aさんが2つの事務所から内定をもらったとします。どちらも「繁忙期あり」と書かれていて、給与も近い。こんな場面では、求人票の残りの項目と面接での質問で差を確かめるしかありません。

この記事では、繁忙期がなぜ生まれるのかを国税庁の公表資料で確認し、残業の法律上の上限を条文に沿って整理します。そのうえで、公的統計で分かる範囲と分からない範囲を分け、求人票と面接で残業実態を見分ける具体的な手順を示します。

この記事で分かること

  • 確定申告期を中心とした、会計事務所の繁忙の山がいつ来るのか
  • 残業の法律上の上限(36協定・特別条項)と、条文ごとの内訳
  • 公的統計で確認できる範囲と、事務所単体の数値ではないという限界
  • 求人票で読める項目と、面接で聞くべき質問の一覧表
目次

繁忙の中心は2月中旬〜3月で、1月と5月にも山がある

会計事務所の繁忙期は、所得税の確定申告の受付期間に業務が集中して生まれます。ただし、事務所の顧問先構成によっては、その前後にも別の山ができます。

確定申告期の日程

国税庁は、令和7年分の所得税および復興特別所得税の確定申告について、相談および申告書の受付期間を令和8年2月16日(月)から同年3月16日(月)までと公表しています。個人事業者の消費税等の申告・納付期限は、これより後の令和8年3月31日(火)です。

顧問先からの資料提出や問い合わせは、期限が近づくほど増えやすい傾向があります。会計事務所側は短い期間で多数の申告書を仕上げる必要があるため、2月後半から3月にかけて業務量が積み上がります。所得税の申告が一段落しても消費税の対応が残るので、3月いっぱいは繁忙が続く事務所があります。

1月と5月に山ができる事務所

1月は、前年分の年末調整、法定調書、給与支払報告書に関する業務が重なります。確定申告の準備期間と時期が近いため、1月から3月まで繁忙が連続する事務所もあります。

法人の決算・申告は顧問先の決算月に応じて年間を通じて発生します。3月決算の法人を多く抱える事務所では、決算から2か月後の5月に別の山が来ます。反対に、決算月が分散している事務所では、山は低いものの年間を通じて波が続きます。

山の数で働き方が変わる

「確定申告期だけが忙しい」事務所は、山が1つで、忙しい時期を過ぎれば落ち着きます。山が2つ以上ある事務所は、年間の忙しい月数が増える一方、1回あたりのピークが低いこともあります。どちらが良いかは、生活や試験勉強の計画との相性で決まります。求人票の「繁忙期あり」からは、この違いは読み取れません。

残業の上限は法律で決まっている:36協定と特別条項

繁忙期の残業がどこまで許されるかは、労働基準法の上限規制で決まります。会計事務所を含むすべての事業所が対象で、事務所の裁量だけでは超えられません。

原則の上限

時間外労働の上限は、労使協定(36協定)を結んだ場合でも、原則として月45時間・年360時間です。厚生労働省の「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」でも、この上限が示されています。36協定を結んでいない事務所や、結んでも届け出ていない事務所は、法定労働時間を超える残業を命じられません。

特別条項の要件

原則の月45時間を超えられるのは、特別条項付きの36協定を結んだ場合に限られます。条文は、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超える必要がある場合に限り、特別条項を認める趣旨で書かれています。「忙しいから」という理由で、いつでも使える仕組みではありません。

厚生労働省の36協定届の記載例(特別条項)では、臨時的な特別の事情の例として、予算・決算業務やボーナス商戦に伴う業務の繁忙などが挙げられています。決算業務が例示に含まれるため、会計事務所の繁忙期が特別条項の対象になる場面は十分にありえます。ただし、事務所が特別条項を持っているかどうか、どのような事由を書いているかは、協定を見なければ分かりません。

条文ごとの上限

特別条項を結んでも超えられない上限は、労働基準法第36条の中で次のように分かれています。

  • 年720時間以内、月45時間を超えられるのは年6回まで:第36条第5項
  • 時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満:第36条第6項
  • 時間外労働と休日労働の合計が2〜6か月の平均でいずれも80時間以内:第36条第6項

これらは「超えてはいけない天井」です。天井の近くで働かされるのか、余裕があるのかは、事務所の体制によって変わります。1月から3月まで繁忙が連続する事務所は、年6回の枠を使い切りやすい点にも注意が必要です。

公的統計で確認できること・できないこと

公的統計で確認できるのは、近い業種の月間残業時間の目安です。税理士事務所単体の数値は確認できません。

確認できること

厚生労働省の賃金構造基本統計調査には、産業中分類「専門サービス業」の区分があり、月間の超過実労働時間数が公表されています。税理士事務所や会計事務所を含む業種の、平均的な残業の水準を知る目安になります。

毎月勤労統計調査(厚生労働省)では、産業「学術研究,専門・技術サービス業」の月別の所定外労働時間が公表されています。月別に見られるので、確定申告期にあたる2〜3月と、それ以外の月を比べることで、季節による波の大きさを確認できます。

どちらの表も、調査年や区分(平均か、規模別か)によって数値が異なります。数値を引用するときは、必ず原表で調査年・区分・単位をそろえて確認してください。この記事では、原表の数値を転記していない点にご注意ください。

確認できないこと

賃金構造基本統計調査の「専門サービス業」には、弁護士事務所、特許事務所、デザイン業などが含まれます。毎月勤労統計調査の「学術研究,専門・技術サービス業」は、さらに広い区分です。どちらも、税理士事務所や会計事務所だけを取り出した数値ではありません。したがって、これらの統計は近い業種の目安にとどまります。

「税理士事務所は平均◯時間残業する」という数字を、公的統計の裏付けなしに断定することはできません。事務所単位の実態は、求人票と面接で個別に確認する必要があります。

統計の使いどころ

統計は、面接で聞いた数字が業界の水準と比べて極端かどうかを確かめる基準として使えます。たとえば、面接で「繁忙期の月の残業は平均60時間程度」と説明されたとき、月別の所定外労働時間の表で2〜3月の伸び方を見ておくと、その説明が妥当か考える助けになります。

求人票と面接で残業実態を見分ける

事務所ごとの残業実態は、求人票の読み取りと面接での質問を組み合わせて見分けます。下の表は、確認項目を「求人票でわかること」と「面接で聞くこと」に分けて整理したものです。

求人票と面接の確認表

確認項目求人票でわかること面接で聞くこと
固定残業代(みなし残業)固定残業代の有無、含まれる時間数、超過分の支払い直近の繁忙期に、固定分を超えた人の割合と、超過分の精算方法
繁忙期の休日出勤休日出勤の記載、振替休日や代休の有無確定申告期に休日出勤は何日くらいあったか、代休は取れたか
受験生への配慮試験休暇、学習支援制度、勤務時間の調整の記載8月の試験前に休暇を取った先輩の例、繁忙期の勉強時間の確保
36協定の特別条項記載がないことが多い特別条項の有無、定めている上限時間、年に何回まで使うか
繁忙の山の数「繁忙期」の月の記載決算月の分布、1月・5月の忙しさ
残業の実測値平均残業時間の記載(あれば)直近の確定申告期の月別残業時間、最大値と閑散期の値
業務分担担当件数、チーム制かどうか繁忙期に応援が入る体制、クラウド会計や自動化の導入状況

固定残業代は「時間数」と「超過分」を見る

求人票に固定残業代が含まれていれば、何時間分が含まれているかを確認します。含まれる時間数が多いほど、その時間まで残業する前提の設計だと考えられます。超過分を別に支払うと書かれているかどうかも、重要な確認項目です。

特別条項は「有無」と「上限時間」を聞く

36協定の特別条項は、求人票に書かれていないことが多い項目です。面接では、特別条項があるかどうかに加えて、そこで定めている上限時間を聞いてください。上限が法律の天井に近い場合、繁忙期に長時間の残業が起こりうる設計です。逆に、上限が低めに設定されていれば、事務所が残業を抑えようとしている姿勢を読み取れます。

聞き方としては、「繁忙期の残業の上限について、協定ではどのように定めていますか」と尋ねると、角が立ちません。曖昧な回答が返ってきたときは、実態の把握が甘い可能性があります。

数字は最大値と閑散期の値を両方聞く

平均値だけを聞くと、繁忙期に偏った働き方が隠れてしまいます。「繁忙期の最大値」と「閑散期の値」の両方を聞くことで、年間を通じた働き方が見えてきます。数字をすぐに答えられない場合は、勤怠管理が十分でない可能性もあります。

受験生や長く働きたい人が確認しておきたいこと

働き方の希望によって、見るべき項目の重みは変わります。ここでは、受験生と長く働きたい人の2つの立場から整理します。

税理士試験の受験生の場合

受験生にとっての最大の関心は、8月の試験前後に休めるかどうかと、繁忙期にも学習時間を確保できるかどうかです。求人票の「試験休暇」の記載は入り口にすぎません。制度があっても、実際に取れている人がいるかどうかは別の話です。

面接では、「試験の前に休暇を取った先輩はいますか」「繁忙期の翌月に、学習に充てる時間を確保する工夫はありますか」と具体的に聞きます。実例を挙げて答えられる事務所は、制度が運用されている可能性が高いといえます。

長く働きたい人の場合

繁忙期の負荷を年間でならして考えたい人は、山の数と業務分担を重視します。山が1つで時期が予測できる事務所は、繁忙期に向けて生活を調整しやすい面があります。山が複数ある事務所は、年間の忙しい月数が増えるので、休暇の取りにくさを面接で確認したいところです。

チーム制で担当が複数人にまたがる事務所は、特定の担当者に業務が集中しにくい構造です。逆に、担当者制で一人が顧問先を丸ごと受け持つ事務所は、繁忙期の負荷が個人に偏りやすくなります。転職後のキャリアや年収の考え方は、税理士の転職で年収アップを成功させるためのポイントと注意点も参考になります。

未経験から入る場合の見方

会計事務所への転職が初めての方は、繁忙期に教育の時間が取れるかどうかも確認する価値があります。繁忙期は指導する側にも余裕がなくなるため、入社時期と繁忙期の重なり方によって、最初の数か月の過ごし方が変わります。未経験からの進め方は、未経験から税理士法人への転職は可能?で整理しています。

まとめ

会計事務所の繁忙は、所得税の確定申告期(令和7年分は令和8年2月16日から3月16日)を中心に、消費税の申告期限(同3月31日)、1月の年末調整関連業務、5月の法人決算対応が重なって発生します。残業には労働基準法第36条の上限があります。原則は月45時間・年360時間で、特別条項でも年720時間・年6回まで(第5項)、単月100時間未満と2〜6か月平均80時間以内(第6項)を超えられません。

ただし、この上限は「超えてはいけない天井」で、個々の事務所の実際の忙しさを示すものではありません。公的統計も、専門サービス業や学術研究,専門・技術サービス業という近い業種の目安にとどまり、税理士事務所単体の残業時間は分かりません。だからこそ、求人票の固定残業代や休日出勤の記載を読み、面接で特別条項の上限と直近の実測値を聞く、という個別の確認が欠かせません。

比べる軸は、繁忙の山の数、残業の実測値、業務分担の3点です。受験生であれば試験前の休暇の実例を加えて、複数の事務所を同じ表で比べてみてください。

  • 繁忙の中心は2月中旬〜3月で、1月と5月にも山がある事務所がある
  • 残業の上限は労働基準法第36条で決まっているが、これは天井であり実態ではない
  • 公的統計は近い業種の目安にとどまり、税理士事務所単体の数値ではない
  • 求人票では固定残業代・休日出勤・受験生への配慮を読み、面接では特別条項の有無と上限時間、直近の残業実測値を聞く

参考文献

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