面接の終盤で「何か質問はありますか」と聞かれ、「特にありません」と答えてしまった経験はないでしょうか。会計事務所の面接では、志望動機や経験の説明に力を使い切り、最後の質問の時間を形式的に流してしまう人が少なくありません。
ところが、この時間は、入所後に「思っていた働き方と違った」と感じるかどうかを左右する場面です。求人票には載らない担当の持ち方、繁忙期の過ごし方、試験勉強への理解、評価の仕組みは、聞かなければ分かりません。聞かずに入所すると、確定申告期に初めて実態を知ることになります。
一方で、聞き方を間違えると「条件ばかり気にする人」と受け取られかねません。休みや残業の話を切り出しにくいと感じて、質問を飲み込む人もいるでしょう。大切なのは、聞く内容そのものよりも、意欲を示しながら事実を確かめる順序と言い回しです。
この記事では、税理士・会計事務所の面接で使える逆質問を、確かめたい実態ごとに整理します。読み終えるころには、自分が何を確かめたいのかを決め、面接のどの段階で、どの言い方で聞くかを自分で組み立てられるようになります。
この記事で分かること
- 逆質問が、評価の場であると同時に入所後の実態を確かめる場でもある理由
- 担当業務・繁忙期・育成・評価の4つの軸で使える質問例と聞き方
- 質問の優先順位を決める比較表と、面接の段階ごとの使い分け
- 印象を下げやすい聞き方と、その言い換え
- 面接前日までにやっておく準備手順
逆質問は「評価される場」であり「確かめる場」でもある
逆質問は、事務所があなたを見る場であると同時に、あなたが事務所を見る場です。どちらか一方に偏らず、両方の目的を意識して質問を選ぶと、面接全体の質が上がります。
事務所側から見ると、逆質問は準備の深さや仕事への関心を測る材料になります。質問の内容から、事務所の事業内容をどこまで調べてきたか、入所後にどんな働き方を想像しているかが伝わります。そのため、ホームページを見れば分かることを聞くと、準備不足という印象になりやすいです。
応募者側から見ると、逆質問は求人票の裏付けを取れる数少ない機会です。求人票の記載は限られた文字数にまとめられており、担当件数、繁忙期の体制、試験勉強への配慮といった中身までは分かりません。同じ「残業月20時間程度」という表記でも、繁忙期を含むのか、平均なのかで意味は変わります。求人票の読み方を事前に押さえておくと、面接で何を聞くべきかが絞り込みやすくなります。
こんな場面を考えてみます。転職を考えている会計事務所の職員が、二次面接の最後に「繁忙期の残業はどのくらいですか」とだけ尋ね、「その時期は皆で乗り切っています」という答えを受け取ったとします。これでは、何時間なのか、誰がどう分担するのかは何も分かりません。質問が漠然としていると、答えも漠然としたものになります。逆質問は、一つの質問で終わらせず、答えに対して具体的に聞き返すところまでを想定して準備するものです。
労働条件そのものについては、法令上、事業者に明示の義務があります。厚生労働省は、2024年4月から労働条件明示のルールが変わったと案内しており、すべての労働者に対して、就業場所・業務の内容に加えて、それらの「変更の範囲」を明示する必要があるとしています。つまり、入所後に担当業務や勤務地がどこまで変わり得るのかは、聞いて失礼にあたる事柄ではなく、本来明示されるべき情報です。面接で確かめる姿勢を、後ろめたく感じる必要はありません。
ただし、変更の範囲の明示が求められるのは、労働契約を結ぶときと、有期労働契約を更新するときです。面接の段階では、まだ書面が出ていない場合があります。そのため、面接では口頭で大まかな方針を聞いておき、書面が出る内定後の面談で、聞いた内容と記載が一致しているかを照らし合わせる流れが現実的です。この流れは、後述の「面接の段階ごとに質問を使い分ける」の章で改めて整理します。
事実を確かめるための4つの軸と逆質問の例
確かめたい実態は、担当業務、繁忙期の働き方、育成と試験への理解、評価と報酬の4つに分けると整理しやすくなります。軸ごとに、質問の例と、答えのどこを見るかを示します。
担当業務の範囲と持ち方
入所後に何を、どれだけ、誰と担当するのかは、仕事の満足度を最も左右する部分です。最初に確かめておきたい軸です。
質問の例は次のとおりです。
- 「入所後、最初の半年は、どのような業務から担当することになりますか」
- 「一人あたり、どのくらいの顧問先を持つことが多いでしょうか。法人と個人の比率も教えてください」
- 「担当は固定ですか、それとも案件ごとに入れ替わりますか」
答えを聞くときは、数字や具体的な業務名が出てくるかを見ます。「状況に応じて」「ご本人の適性を見て」という答えだけが続く場合は、受け入れ体制が固まっていない可能性があります。先ほどの労働条件明示の考え方に沿えば、将来の配置転換や担当替えがどこまであり得るのかも、あわせて聞いておくと安心です。
繁忙期の働き方と休み方
繁忙期は、確定申告期と法人決算の集中期に分けて聞きます。国税庁は、所得税の確定申告期間を原則として翌年の2月16日から3月15日までとしています。この約1か月が個人の顧問先の申告業務の山になるため、その期間をどう乗り切る体制なのかが、事務所ごとの違いとして表れます。ここは聞き方を工夫すると、角が立たずに実態を引き出せます。
質問の例は次のとおりです。
- 「繁忙期には、どのような体制で業務を進めていらっしゃいますか。応援や分担の仕組みはありますか」
- 「繁忙期明けに、まとまった休みを取りやすい雰囲気はありますか」
- 「残業が多くなる時期は、主にどの作業が集中するのでしょうか」
答えを聞くときは、「月何時間」という数字よりも、仕事の分け方に注目します。入力作業を補助スタッフに任せる、チェックを複数人で行うといった仕組みの説明があれば、体制が整っている手がかりになります。残業と繁忙期の見方は会計事務所の残業と繁忙期の実態で詳しく扱っています。
求人票に固定残業代の記載がある場合は、その内訳も確認します。厚生労働省は、固定残業代を支払うだけでは別途の残業代の支払い義務は免除されず、実際の残業が想定時間を超える場合はその差額を支払う必要があるとしています。面接では「固定残業代に含まれる時間数と、それを超えた分の扱いを教えてください」と聞けば、条件を疑う姿勢ではなく、入所後の働き方を具体的に理解したいという姿勢として伝わります。
育成の仕組みと試験への理解
税理士試験の勉強を続けながら働く人や、未経験から入る人にとって、育成と試験への理解は欠かせない軸です。国税庁の「税理士試験の概要」によると、税理士試験は科目合格制をとっており、一度に5科目を受験する必要はなく、1科目ずつ受験してもよいとされています。合格基準点は各科目とも満点の60パーセントです。つまり、働きながら少しずつ科目を重ねていく進め方が制度上も想定されており、事務所が受験をどこまで理解しているかが、続けやすさを左右します。
質問の例は次のとおりです。
- 「入所した職員は、どのように業務を覚えていくのでしょうか。担当者がつく仕組みはありますか」
- 「税理士試験を受験している職員の方は、どのくらいいらっしゃいますか。直前期の働き方はどうされていますか」
- 「資格取得後に、担当や役割がどう変わった方がいらっしゃいますか」
答えを聞くときは、実際にいる人の例が出てくるかを見ます。制度だけを説明され、具体的な人の話が出ない場合は、運用が形骸化している可能性があります。試験休暇や資格手当の比べ方は会計事務所の試験休暇と資格手当の見方で整理しています。
評価の基準と報酬の決まり方
評価と報酬は、聞きにくい軸ですが、入所後の納得感に直結します。直接金額を尋ねるのではなく、決まり方を尋ねると自然です。
質問の例は次のとおりです。
- 「評価は、どのような基準で、どのくらいの頻度で行われますか」
- 「昇給や役割の変更は、何を基準に判断されていますか」
- 「入所後に評価される人に共通する特徴があれば教えてください」
答えを聞くときは、基準が言葉になっているかを見ます。「頑張りを見ています」だけでは、何をすれば評価されるのかが分かりません。担当件数、新規の獲得、資格の取得、後輩の指導など、評価の対象が具体的に挙がるほど、入所後の見通しを立てやすくなります。
質問の優先順位を比較表で決める
質問をすべて聞く時間はありません。確かめたい軸の中から、自分にとって譲れないものを先に選びます。次の表は、軸ごとの聞き方と注意して見る答えを並べたものです。
| 確かめたい軸 | 聞き方の基本 | 注意して見る答え | 優先度が高い人 |
|---|---|---|---|
| 担当業務 | 最初の半年の業務と担当件数を聞く | 数字や業務名が出ない | 未経験・業種転換の人 |
| 繁忙期 | 体制と分担の仕組みを聞く | 「皆で乗り切る」だけで終わる | 家庭や学業と両立したい人 |
| 育成・試験 | 実際にいる人の例を聞く | 制度の説明のみで人の話が出ない | 受験生・科目合格を目指す人 |
| 評価・報酬 | 決まり方と頻度を聞く | 基準が「頑張り」のみ | 昇進や独立を考える人 |
表の使い方は簡単です。四つの軸のうち、入所の決め手になるものに印をつけ、その軸に二つずつ質問を用意します。優先度が低い軸は、時間が残ったときに聞く程度で構いません。
また、すべてを一つの面接で聞こうとしないことも大切です。一次面接では担当業務と育成、最終面接では働き方と評価、というように、面接官の立場に合わせて配分すると、相手も答えやすくなります。この点は次の章で詳しく扱います。
面接の段階ごとに質問を使い分ける
同じ質問でも、誰に聞くかで得られる答えは変わります。面接官の立場を考えて質問を割り振ると、実態に近い情報が得られます。
一次面接では、現場の職員や管理職が出てくることが多く、日々の業務の様子を具体的に聞ける相手です。担当件数、一日の流れ、繁忙期の分担といった実務の質問は、この段階が向いています。「入所三年目の方は、どのような一日を過ごされていますか」といった聞き方なら、現場の空気が伝わる答えをもらいやすくなります。
二次面接や最終面接では、代表税理士や社員税理士が出てくる場合が多く、事務所の方針や将来像を聞ける相手です。事務所が今後どの分野に力を入れるのか、職員にどのような役割を期待しているのか、評価や昇進をどう考えているのかといった質問は、この段階で聞くと、経営者の考えが直接伝わります。
そして、内定後の面談や条件提示の場では、労働条件を書面で確認する機会が生まれます。ここでは、これまでの面接で聞いた内容と書面の内容に食い違いがないかを照らし合わせます。担当業務や勤務地の変更の範囲は、前に触れたとおり明示が必要な事項なので、書面に記載があるかを見たうえで、不明点を質問してください。口頭で聞いた話は、書面で裏付けを取っておくと、入所後の行き違いを減らせます。
面接全般で聞かれる質問への準備は、会計事務所の面接でよく聞かれる質問と答え方でも扱われています。逆質問と合わせて準備すると、面接全体の筋が通ります。
印象を下げやすい聞き方と言い換え
聞く内容が正しくても、言い方次第で印象は大きく変わります。避けたい聞き方と、その言い換えを整理します。
最初に避けたいのは、休みや残業の話だけを切り出すことです。「残業はありますか」「有給は取れますか」とだけ聞くと、働く意欲より条件への関心が前に出てしまいます。同じ内容でも、「繁忙期に力を発揮するために、体制や休息の取り方を教えていただけますか」と聞けば、仕事への姿勢と一緒に実態を確かめられます。
次に避けたいのは、調べれば分かることを聞くことです。事務所のホームページや求人票に載っている所在地、顧問先の業種、従業員数などを尋ねると、準備不足と見られます。まず調べたうえで、「ホームページで拝見した○○の分野について、今後どのように広げていくお考えでしょうか」と、調べた内容を踏まえた質問に変えます。
三つ目は、答えにくい二択を迫る聞き方です。「残業が多いか少ないか」「厳しいか優しいか」といった質問は、面接官が無難な答えを返すしかなく、情報が得られません。「直近の繁忙期で、特に忙しかった週はどのような状況でしたか」のように、具体的な場面を尋ねれば、実態に近い答えが返ってきます。
最後に、質問を重ねすぎないことも大切です。用意した質問を機械的に読み上げるのではなく、相手の答えに対する反応や、そこから生まれた疑問を優先してください。面接官の答えを受けて「そのお話ですと、○○という理解で合っていますか」と確認する姿勢のほうが、対話として好印象を残します。
面接前日までの準備手順
逆質問は、その場の思いつきでは質が上がりません。次の手順で準備すると、面接当日に慌てずに済みます。
- 事務所のホームページ、求人票、公開されている情報を読み、分かることと分からないことを書き出す
- 分からないことの中から、入所の決め手になる軸を二つ選ぶ
- 各軸に二つずつ質問を作り、面接の段階に合わせて割り振る
- それぞれの質問に、答えが曖昧だった場合の聞き返しを一つずつ用意する
- 質問の理由を、自分の言葉で一文にして言えるようにしておく
- 面接後に聞いた内容をすぐ書き留め、複数の事務所を比べられるようにする
特に、五つ目の理由を言葉にしておくことは重要です。「なぜその質問をするのか」を説明できれば、条件面の質問でも、入所後の働き方を真剣に考えている姿勢として伝わります。
また、六つ目の記録も見落としがちです。複数の事務所を受ける場合、面接直後の記憶は混ざりやすく、数日後には「どの事務所で何を聞いたか」が曖昧になります。同じ軸で同じ質問をして、その答えを並べて見比べると、求人票では分からなかった差がはっきり見えてきます。
準備の最後には、聞きたいことを三つに絞った紙を手元に置いておきます。面接中の緊張で頭が真っ白になっても、その紙を見れば落ち着いて切り出せます。応募先を何社も同時に抱えると、この準備が追いつかなくなりがちです。面接の日程は、一社ごとに準備の時間が取れる間隔で組むのが現実的です。
まとめ
逆質問は、意欲を示す時間であると同時に、入所後の実態を確かめる貴重な機会です。求人票だけでは分からない担当業務、繁忙期の働き方、育成、評価の仕組みは、面接官に直接聞くことでしか確かめられません。
聞くときは、条件だけを切り出さず、仕事への姿勢とセットで尋ねることが大切です。答えは、数字や具体的な人の例が出てくるかどうかに注目して読みます。曖昧な答えが続くときは、深追いするのではなく、書面や別の面接の場で裏付けを取る方法もあります。
質問は、自分にとって譲れない軸を絞り、面接官の立場に合わせて割り振ります。準備の段階で理由を言葉にし、面接後は答えを記録して比べるところまで行えば、逆質問は事務所選びの確かな判断材料になります。
- 逆質問は、評価される場であると同時に、入所後の実態を確かめる場でもある
- 担当業務・繁忙期・育成と試験・評価と報酬の4軸で、質問を二つずつ用意する
- 一次面接は現場の実務、最終面接は事務所の方針と評価を聞くと、実態に近い答えが得られる
- 休みや残業だけを切り出さず、仕事への姿勢とセットで聞く
- 担当業務や勤務地の変更の範囲、固定残業代の内訳は、内定後の書面と照らして確認する

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