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資産税・相続専門の税理士法人へ転職するには|未経験からの進め方

Photo by Margaret Stokman on Unsplash

法人税や所得税の申告を中心に担当してきて、「次は資産税・相続に進みたい」と考え始める人は少なくありません。顧問先の社長から相続の相談を受けたものの、自分では答えきれなかった。あるいは、毎年同じ決算・申告の繰り返しに行き詰まりを感じ、一件ごとに状況が違う相続の仕事に惹かれている。そうした場面から、資産税の専門法人を調べ始める人が多いようです。

ただ、資産税・相続の専門法人は、求人の数も仕事の中身も、一般的な会計事務所とはかなり違います。求人票に「相続税申告」と書かれていても、実際に担当するのは書類の収集と財産目録の作成が中心なのか、財産評価や遺産分割の提案まで任されるのかは、法人ごとに大きく異なります。入社後に「思っていた仕事と違う」となると、転職を繰り返すことにもなりかねません。

この記事では、資産税・相続分野の仕事の全体像と、国税庁の統計から見える需要の背景を押さえたうえで、経験別の準備、法人の見極め方、応募までの手順、入社後に起きやすいミスマッチまでを順に整理します。読み終えるころには、自分が今の経験から資産税へ進めるのか、進むならどの順序で動くのかを、自分の言葉で説明できる状態を目指します。

なお、年収については、公的統計が「資産税専門の税理士法人」という区分で数値を公表しているわけではありません。そのため、この記事では年収の金額を並べることはせず、条件を比べる軸と確認の手順を中心にお伝えします。

この記事で分かること

  • 資産税・相続の仕事が、法人税・所得税中心の業務とどう違うか
  • 国税庁の統計から見える、相続税申告の規模と需要の背景
  • 経験や資格の状況別に、転職前に何を準備すればよいか
  • 資産税専門の税理士法人を、求人票と面接で見極める比較表
  • 応募までの準備手順と、入社後のミスマッチを減らす確認事項
目次

資産税・相続の仕事は、申告書を作るだけでは終わらない

結論から言うと、資産税・相続分野の仕事は「相続税申告書の作成」を軸にしながら、その前後にある相談対応、財産の評価、対策の提案まで含めて成り立っています。法人税中心の仕事のように決算期から逆算して進む業務とは、時間の流れも関わる相手も異なります。

相続税申告を中心とした業務の流れ

相続税の申告は、被相続人が亡くなった後に始まります。まず相続人から話を聞き、預貯金、不動産、有価証券、保険などの財産を洗い出して、財産目録を整えます。次に、土地や非上場株式などの評価を行い、遺産分割の内容に応じて税額を計算し、申告書にまとめます。

一件ごとに家族の事情も財産の構成も違うため、決まった型どおりに進まない場面が多くなります。たとえば、相続人の間で話し合いが進まず、分割の方針が固まらないまま申告期限が近づくこともあります。書類を作る力だけでなく、依頼者の事情を聞き取り、順序立てて説明する力が求められる仕事です。

申告の前後にある周辺業務

資産税の専門法人では、相続が起きた後の申告だけでなく、起きる前の相談も扱うのが一般的です。生前贈与の検討、不動産の売却に伴う譲渡所得の試算、事業承継に向けた自社株の評価など、資産の持ち方や渡し方を相談される場面があります。

こうした周辺業務は、法人によって守備範囲が違います。相続税申告を大量に処理する体制の法人もあれば、生前対策や事業承継の提案に力を入れる法人もあります。自分がどちらに近い仕事をしたいのかを先に言葉にしておくと、法人選びがぶれにくくなります。

相続税の申告件数から、分野の需要を読む

需要の面では、相続税の申告は毎年一定の規模で発生しています。ただし、統計の数字は市場の大きさを示すものであって、個々の法人の求人数や待遇を示すものではない点には注意が必要です。

国税庁の「令和6年分 相続税の申告事績の概要」によると、令和6年分の被相続人数(死亡者数)は1,605,378人で、令和5年分の1,576,016人から増えています。そのうち相続税の申告書を提出した被相続人は166,730人で、令和5年分の155,740人を上回りました。被相続人のうち申告の対象となった人の割合を示す課税割合は、9.9%から10.4%に上がっています。

この数字から言えるのは、相続税の申告が一部の富裕層だけの話ではなく、毎年十数万件規模で発生している業務だということです。亡くなった人のおよそ10人に1人が申告の対象という規模感は、資産税の知識が実務で求められ続ける背景として理解しておくとよいでしょう。

一方で、この件数を何社の税理士法人や会計事務所が分け合っているのか、資産税専門で採用に積極的な法人がどれだけあるのかは、公的統計からは分かりません。需要があることと、自分に合う求人が見つかることは別の問題です。だからこそ、次の章以降で扱う「経験別の準備」と「法人の見極め」が重要になります。

経験別に見る、転職前の準備

資産税への転職は、今の経験によって準備の中身が変わります。ここでは、法人税・所得税中心の会計事務所経験者、一般企業の経理経験者、資産税の実務経験がすでにある人の三つに分けて考えます。

会計事務所で法人税・所得税を担当してきた人

最も移りやすいのは、会計事務所で申告業務を経験してきた人です。申告書の作成手順、税務署への対応、依頼者との日常的なやり取りといった基礎が、そのまま資産税でも土台になります。

準備として有効なのは、今の職場で資産税の案件に一件でも関わっておくことです。相続税の申告補助や、不動産売却に伴う譲渡所得の計算など、小さな案件でも職務経歴書に具体的に書けます。関われる案件がない場合は、相続税法の学習を進めている事実と、個人所得税で不動産や株式の取引を扱った経験を結びつけて説明するのが現実的です。

一般企業の経理から移ろうとする人

経理経験者が資産税に移る場合は、会計事務所の実務経験がないことが最初の壁になります。決算や月次の経験は評価されますが、税務申告そのものを自分で完結させた経験が少ないと、選考では「入社後にどこから教えるか」が焦点になります。

このタイプの人は、いきなり資産税専門の法人を狙うより、まず会計事務所で申告業務を経験するほうが遠回りに見えて確実な場合があります。会計事務所への転職の進め方は、経理から会計事務所へ転職するときのポイントで整理しています。

すでに資産税の経験がある人

資産税の実務経験がある人は、法人選びが転職の成否を左右します。担当してきた案件の種類(相続税申告のみか、譲渡や贈与、事業承継を含むか)、一人で担当した範囲、年間の担当件数を言葉にして整理しておくと、面接で強みを伝えやすくなります。

また、この段階の人は、現職と同じ「処理中心」の環境に移るのか、提案や相談対応まで担える環境に移るのかを決める必要があります。決めずに動くと、転職しても業務の中身が変わらないという結果になりがちです。

資産税専門の税理士法人を見極める比較表

法人を比べるときは、求人票の文言ではなく、仕事の中身が分かる情報を軸にします。以下の表は、応募前から面接までに確認しておきたい項目をまとめたものです。

確認する項目見るポイント確認する場所
業務の種類相続税申告のみか、生前対策・事業承継・譲渡も扱うか求人票、法人のサイト、面接
担当範囲資料収集・評価・申告書作成・依頼者対応のどこまで任されるか面接、入社後の担当イメージ
案件の件数一人あたりの年間担当件数、繁忙期の偏り面接、逆質問
評価の仕組み資産税の経験が昇給や役職にどう反映されるか面接、評価制度の説明
育成の体制未経験者の同行期間、財産評価の勉強機会面接、研修内容
提携先の有無不動産・保険・金融機関などと連携する案件の有無面接、法人のサイト
資格支援試験休暇、受験費用の補助、勉強時間の扱い求人票、就業規則

この表で特に差が出るのは「担当範囲」と「案件の件数」です。同じ「相続税申告を担当する」という仕事でも、補助として関わる期間が長い法人と、早い段階から主担当を任される法人では、成長の速度も忙しさも変わります。

法人の規模による違いを考えたい場合は、大手税理士法人と中小会計事務所はどちらを選ぶべきかの判断軸も併せて使えます。面接で実態を聞き出す質問の作り方は、税理士・会計事務所の面接で使える逆質問が参考になります。

待遇面で気をつけたいのは、年収の金額だけを比べないことです。同じ金額でも、残業代が含まれているのか、繁忙期の勤務時間はどの程度か、資格手当がどう扱われるのかで、実質の条件は変わります。公的統計では資産税専門法人の賃金は区分されていません。だからこそ、求人ごとに内訳を確認する作業が欠かせません。

応募までの準備手順

応募までの準備は、自分の整理、書類の作成、面接での確認という三つの段階に分けて進めると、無駄が出にくくなります。

自分の経験と志向を整理する

最初に、担当した業務の種類、件数、一人で完結させた範囲を書き出します。資産税に関わる経験が少ない場合でも、個人所得税、不動産、株式、法人の株価に関する経験は、関連する材料として拾えます。

次に、資産税で何をしたいかを一文にします。「相続税申告の実務を身につけたい」「生前対策の提案まで担いたい」など、方向を決めておくと、後の志望動機と法人選びが一本の線でつながります。税理士試験の科目合格や相続税法の学習状況も、意欲を示す材料として整理しておきます。

職務経歴書と志望動機を書く

職務経歴書は、資産税向けに書き換えます。個人所得税や不動産、株式に関する経験を前面に出し、件数や担当範囲を具体的に書きます。書き方の基本は経理の職務経歴書の書き方の考え方が応用できます。

志望動機は、その法人の業務の特徴と結びつけて書きます。「資産税に興味がある」だけでは弱く、なぜその法人の業務の組み立てを選ぶのかまで書きます。職務経歴書と志望動機は同じ内容を繰り返さないことが大切で、経歴書には何をしたかを、志望動機にはなぜここで続けたいかを書き分けると、読み手に伝わりやすくなります。

面接で確認する質問を用意する

面接は、選ばれる場であると同時に、法人の実態を確かめる場でもあります。前の章の比較表の項目は、そのまま質問に変換して使えます。たとえば「直近に入社した方は、最初の半年でどの業務を担当されましたか」「一人あたりの年間担当件数はどのくらいですか」といった聞き方です。

質問は、待遇だけでなく、担当範囲と育成の体制に偏らせずに混ぜると、前向きな姿勢として受け取られやすくなります。複数の法人を受ける場合は、同じ質問を使って回答を並べると、違いが見えやすくなります。

入社後のミスマッチを減らすために

転職後に起きやすいミスマッチは、大きく分けて三つあります。担当する業務の想定違い、繁忙の波の想定違い、育成の想定違いです。

業務の想定違いでは、「提案もできると思っていたが、実際は書類作成が中心だった」という場面がよくあります。これを防ぐには、面接で直近に入社した人が最初の半年で担当した業務を具体的に聞くのが有効です。

繁忙の波については、相続税の申告は相続の発生ごとに期限が動くため、案件ごとに山が来るタイプの忙しさになる傾向があります。会計事務所全般の繁忙期の見方は会計事務所の残業と繁忙期の実態も参考になりますが、資産税は決算期に集中するとは限らない点が違います。実際の波は法人の案件構成によって変わるため、面接で月ごとの忙しさを聞いておくと安心です。

育成の想定違いでは、たとえば、他の事務所で数年の経験を積んだ人が、資産税が初めてなだけで一から補助に回されると感じて不満をためるケースがあります。逆に、経験があると見込まれて早々に主担当を任され、評価の知識が追いつかず苦しくなるケースもあります。どちらも、入社前に「最初の三か月は誰と組んで、何を担当するのか」を確認しておけば、ずれを小さくできます。

入社前に確認すべき項目全般は、税理士法人への転職で後悔しないための確認事項に整理してあります。

まとめ

資産税・相続専門の税理士法人への転職は、需要がある分野ではあるものの、仕事の中身と法人ごとの違いを見極めないと、期待とのずれが生まれやすい転職です。国税庁の統計では、令和6年分に申告書を提出した被相続人は166,730人にのぼりますが、これは市場の大きさを示す数字であり、個々の求人の条件を保証するものではありません。

動き方としては、まず自分の経験を棚卸しし、資産税で何をしたいのかを決め、そのうえで法人の担当範囲・案件件数・育成体制を面接で確かめる順序が現実的です。年収は公的統計に資産税専門法人の区分がないため、金額の水準よりも、内訳と働き方の条件を比べることを重視してください。

経験や状況によって最適な進み方は変わります。会計事務所で申告業務を経験している人は、資産税の案件に関わる機会をつくることから始め、経理経験者は申告業務の経験を積む段階を挟むことも選択肢に入れてください。

  • 資産税の仕事は、申告書の作成に加えて、相談対応・財産評価・提案までを含む
  • 令和6年分の相続税の申告書提出は166,730人で、需要はあるが求人の質は法人ごとに異なる
  • 担当範囲と案件件数は、比較表の中でも特に差が出やすい項目
  • 年収は金額だけでなく、残業代・手当・繁忙期の働き方の内訳で比べる
  • 入社前に「最初の三か月の担当」を確認しておくと、ミスマッチを減らせる

参考文献

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